チームの働き方に関する意見対立を解消!多様な勤務スタイルを尊重し、合意形成へ導く方法
はじめに
IT企業のプロジェクトリーダーとして、技術的な課題解決能力は多くの場面で求められます。しかし、チームを円滑に運営し、プロジェクトを成功に導くためには、多様なメンバー間の意見をまとめ、共通の目的に向かう合意形成のスキルが不可欠です。特に近年、リモートワークやフレックスタイムなど、働き方に関する選択肢が増えたことで、チーム内で意見が対立する場面が増えています。
特定の働き方を強く希望するメンバーがいる一方で、別の働き方が最適だと考えるメンバーも存在し、これがチーム内の分断を生んだり、議論が感情的になったりして、プロジェクトの進捗に影響を及ぼすことがあります。このような働き方に関する意見対立は、個人の価値観やライフスタイルに深く関わるため、解決が難しいと感じるかもしれません。
この記事では、ITチームで発生しやすい働き方に関する意見対立に焦点を当て、多様な勤務スタイルへの希望を尊重しつつ、チームとして納得できる合意形成へ導くための具体的なステップと実践的なアプローチをご紹介します。この記事を読むことで、感情的な対立を避け、チーム全体のパフォーマンスを向上させるための道筋を理解できるでしょう。
なぜ働き方で意見対立が起きやすいのか
働き方に関する意見対立は、表面的な希望の違いだけでなく、個人の深い価値観や状況に根差していることが多く、そのため解決が難しくなりがちです。主な原因として、以下の点が挙げられます。
- 個人の価値観とライフスタイルの違い: チームメンバーはそれぞれ異なる家庭環境や生活習慣を持っています。通勤時間の負担、育児や介護との両立、集中できる環境へのニーズなど、最適な働き方は一人ひとり異なります。
- 仕事内容やチームの特性: 役割やタスクによって、リモートワーク向きの作業もあれば、対面での密なコミュニケーションが必須となる作業もあります。チーム全体の協力体制やプロジェクトの性質によっても最適な働き方は変わります。
- 情報不足や誤解: 特定の働き方に対するメリット・デメリットがチーム内で十分に共有されていない場合や、他メンバーの状況に対する理解が不足している場合に、誤解から対立が生じることがあります。
- 漠然とした不安: リモートワークによるコミュニケーション不足への懸念や、特定の働き方を選択した場合の評価への影響など、将来に対する漠然とした不安が意見の対立として表れることがあります。
これらの要因が複雑に絡み合い、単なる好みを超えた、個人の権利やチームへの貢献度に関わるデリケートな問題として扱われがちです。
働き方に関する意見対立を合意形成へ導くステップ
働き方に関する意見対立を解消し、チームとして納得できる落としどころを見つけるためには、段階的なアプローチが必要です。以下に、プロジェクトリーダーとして実践できる具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:現状と希望、懸念の丁寧なヒアリングと共有
まずは、チームメンバー一人ひとりが現在の働き方についてどのように感じているか、そしてどのような働き方を希望しているか、さらにその希望の背景にある理由や、懸念している点を丁寧にヒアリングすることから始めます。
-
実践例:
- 匿名アンケートを実施し、現状の働き方に対する満足度、理想の働き方、その理由、懸念点などを自由記述形式で収集します。これにより、本音を引き出しやすくなります。
- 1on1ミーティングで個別に話を聞く機会を設けます。「現在の働き方で何か困っていることはありますか?」「もし働き方を自由に選べるとしたら、どのようなスタイルを希望しますか?」「なぜそう希望するのか、背景や理由をもう少し詳しく教えていただけますか?」といった問いかけで、個人の状況や価値観を深く理解するように努めます。
- チーム全体での話し合いの場を設ける場合は、「まず、現在の働き方で皆さんが良いと感じている点、逆に課題だと感じている点を一人ずつ共有しましょう。ここでは、良し悪しの判断ではなく、事実や感情を率直に出すことに集中してください。」とガイドします。
-
フレーズ例:
- 「皆さんの現在の働き方について、率直なご意見を聞かせていただけますでしょうか。」
- 「もし理想の働き方が実現できるとしたら、どのようなスタイルが良いですか? その理由や背景についても、可能な範囲で共有をお願いします。」
- 「特定の働き方について、何か懸念していることや不安な点はありますか?」
ステップ2:多様な意見の可視化と背景の深掘り
収集した多様な意見や希望、懸念をチーム全体で見える化し、共有します。この段階では、意見の対立を問題視するのではなく、「多様な考え方があること」をチームとして認識することが重要です。さらに、それぞれの意見の「なぜ」を深掘りし、表面的な希望の裏にある、個人の置かれた状況や大切にしている価値観を理解するよう促します。
-
実践例:
- ホワイトボードやオンライン上の共同編集ツール(Miro、Jamboardなど)を使用し、集まった意見をポストイット形式で貼り出します。
- 意見を「希望する働き方」「その理由/メリット」「懸念点/デメリット」などのカテゴリーに分けて整理します。
- 特に意見が対立している点については、「〇〇さんはAという働き方を希望していますが、その主な理由は〇〇ということですね。具体的にどのような場面でそのメリットを感じますか?」のように、意見の背景にある具体的な状況や感情を深掘りする質問を投げかけます。
-
ケーススタディ: あるITプロジェクトチームで、メンバー間で「週5日リモートワークを続けたい」という意見と、「週3日以上は出社したい」という意見が対立していました。ステップ1、2でヒアリングと深掘りを行った結果、リモート派は「通勤時間がなくなり、家族との時間や自己学習に充てられる」「自宅の方が集中できる」という理由。出社派は「対面で気軽に相談したい」「新しいメンバーへの指導がしやすい」「偶発的な雑談からアイデアが生まれる」という理由があることが明らかになりました。これは単にリモートか出社かという場所の対立ではなく、「タイムマネジメントと集中環境の確保」対「非公式なコミュニケーションと新人育成」という、チームとしての活動の質に関わる課題であると構造化できました。
ステップ3:共通の目的と制約条件の確認
チームとして働く上で、どのような目的を達成する必要があるのか、また、どのような制約条件があるのかを明確に共有します。これは、感情論や個人的な希望だけでなく、チームやプロジェクト全体の視点から働き方を検討するための重要な土台となります。
-
実践例:
- 「私たちがこのプロジェクトを通じて達成すべき目標は何でしょうか?」「顧客や他部門との連携において、どうしても必要な活動はありますか?(例:特定の曜日の顧客訪問、定例会議への参加など)」「会社の規定やセキュリティ上の制約はありますか?」といった質問を投げかけ、チームの共通認識を形成します。
- ホワイトボードなどに「チームの目的」「プロジェクトの特性」「会社の規定」「顧客からの要求」といった項目を書き出し、共有情報を整理します。
-
フレーズ例:
- 「チームとしての共通の目標や、プロジェクトを進める上で避けられない制約条件について確認しておきましょう。」
- 「これらの目的や制約を踏まえた上で、どのような働き方がチームとして最も機能するのかを考えていきたいと考えています。」
ステップ4:複数の選択肢の検討と評価
ステップ2で明らかになった多様な意見と、ステップ3で確認した共通の目的・制約条件を踏まえ、具体的な働き方の選択肢を複数案検討します。そして、それぞれの選択肢が、ステップ2で深掘りした個別の希望や懸念(ケーススタディで例示した「非公式なコミュニケーション」「新人育成」「集中環境」など)に対して、どのように影響するかを評価します。
-
実践例:
- ブレインストーミングで様々な案を出し合います。(例:全員週X日出社、特定の役割のメンバーは週Y日出社、コアタイム設定、フルリモートだが月1回集まるなど)
- それぞれの案について、「この働き方の場合、〇〇さんが懸念していた対面での相談はどの程度可能になるでしょうか?」「△△さんが重視する集中できる時間は確保できるでしょうか?」のように、具体的な懸念や希望との関連性を議論します。
- 各選択肢のメリット・デメリットを表形式などで整理し、比較検討します。
-
具体的な検討例: 前述のケーススタディのチームでは、「週3日出社」案、「特定の曜日(例:火・木)のみ出社」案、「フルリモートだが、オンラインで雑談タイムを設ける、新人はメンター制度を活用する」案など、複数の選択肢を検討しました。それぞれの案について、「偶発的なコミュニケーション」「新人への指導」「集中できる環境」といった観点から、実現可能性や影響度を評価しました。
ステップ5:合意形成と合意内容の文書化
検討・評価した選択肢の中から、チームとして最も「納得」できる働き方を合意形成します。必ずしも全員一致を目指す必要はありませんが、議論プロセスを通じてそれぞれの意見が尊重され、チーム全体として「これでやってみよう」と思える状態を目指します。合意した内容は、認識のズレを防ぐために明確に文書化します。
-
実践例:
- 議論の結果を踏まえ、「皆さんにとって、どの選択肢が最も納得できますか?」と問いかけ、チームとしての総意を形成します。全員一致が難しい場合は、事前に「最終的には多数決とする」「全員が極端に反対しない案(コンセンサス)を採用する」といった合意形成のルールを決めておくことも有効です。
- 決定した働き方(例:週2日(火・木)は原則出社、それ以外はリモート可)に加え、その働き方を実現するための具体的なルールや工夫(例:出社日にはチームミーティングを集中して行う、リモート日には毎日朝会で顔を合わせる、雑談用のオンラインチャンネルを設けるなど)も合わせて決定します。
- 決定事項を議事録に明確に記載します。
-
テンプレート例(議事録項目):
- 議題: チームの新しい働き方について
- 議論の経緯: (ステップ1〜4の議論の要点を簡潔に記載)
- 検討した選択肢: (ステップ4で検討した主な案と評価結果を記載)
- 決定事項(合意内容): [合意した具体的な働き方。例: 週2日(火・木)原則出社、それ以外はリモート]
- 関連ルール・工夫: [具体的なルールや運用方法のリスト。例: 出社日・リモート日共通の定例ミーティング時間、オンラインでのコミュニケーションルール、出社時の座席ルールなど]
- 実施期間: [試行期間を設ける場合はその期間。例: 〇年〇月〇日〜〇年〇月〇日まで]
- 次回の見直し予定: [試行期間終了後の見直しを行う場合はその日付]
ステップ6:試行と継続的な見直し
一度合意した働き方が常に最適とは限りません。実際に運用してみて生じる課題や、チーム状況の変化に応じて、働き方や関連ルールを継続的に見直す機会を設けることが重要です。
-
実践例:
- ステップ5で設定した試行期間が終了したら、チームで再度振り返りミーティングを実施します。
- 「新しい働き方を試してみて、良かった点、難しかった点、改善点などを共有しましょう。」と問いかけ、率直な意見交換を促します。
- 必要に応じて、働き方の調整やルールの変更を行います。
-
フレーズ例:
- 「今回の働き方で〇ヶ月間運用しました。実際にやってみて、皆さんどう感じていますか?」
- 「この働き方をより良くするために、何か改善できる点や、新しく試してみたいアイデアはありますか?」
合意形成におけるファシリテーションのポイント
働き方に関する意見対立の合意形成を進める上で、プロジェクトリーダーはファシリテーターとしての役割を担います。成功のためのポイントは以下の通りです。
- 中立性の維持: 特定の意見に肩入れせず、全てのメンバーが安心して発言できる公平な場を作ることに徹します。
- 傾聴と共感: メンバーの発言内容だけでなく、その背景にある感情や意図を理解しようと努め、「〇〇さんは、△△という理由でその働き方を希望されているのですね」のように、理解したことを本人に伝えることで、安心感を与えます。
- 感情的になった議論の鎮静化: 意見が対立し、感情的になりそうな場合は、「少し冷静になって、一度ここで意見を整理しましょう」などと促し、議論の焦点を戻します。
- 発言機会の均等化: 特定のメンバーだけが話しすぎたり、逆に全く発言しないメンバーがいたりしないよう、「〇〇さんはこの点について何か意見はありますか?」のように、意識的に全員に発言を促します。
- 時間管理: 議論が脱線しないよう、また、全てのステップを適切な時間内で進められるよう、時間配分を意識します。
まとめ
ITチームにおける働き方に関する意見対立は、多様な価値観を持つメンバーが集まる現代において避けては通れない課題の一つです。しかし、この対立を単なる問題として捉えるのではなく、チームとしてより良い働き方を見つけるための機会と捉えることが重要です。
この記事でご紹介した「ヒアリング・共有」「意見の可視化・深掘り」「目的・制約の確認」「選択肢の検討・評価」「合意形成・文書化」「試行・見直し」という6つのステップと、ファシリテーションのポイントを実践することで、感情的な対立を避け、チームメンバー一人ひとりの希望を可能な限り尊重しつつ、チーム全体のパフォーマンスを最大化する働き方について、建設的な合意形成を進めることが可能になります。
プロジェクトリーダーとして、これらのスキルを活用し、多様な働き方を受け入れ、それをチームの力に変えていくことで、より強く、生産的なチームを築き上げてください。